キジトラは、アグーチ遺伝子が働いた縞の地に、Taqpepによるmackerel(サバ縞)模様が出た、非オレンジの茶褐色の柄です。野生の猫に最も近い毛色として知られます。『キジトラ』という呼び名は日本の俗称で、遺伝学の一次資料がこの名を定義しているわけではありません。遺伝の仕組みと性格の言説を、出典つきで正直に整理します。
キジトラは、アグーチ遺伝子が働いた縞の地に、Taqpepによるmackerel(サバ縞)模様が出た、オレンジではない茶褐色の柄です。野生の猫に最も近い毛色として知られます。ここでは、その縞がどうやって生まれるかを一次資料で確かめ、「キジトラは気が強い」といった性格の言説をどこまで信じてよいかを、根拠の強さごとに整理します。
「キジトラ」という呼び名は日本で広く使われる俗称です。この日本語名そのものを定義した遺伝学の一次資料は存在しません。ここでは遺伝の仕組みを一次資料で確定させ、その表現型に「キジトラ」という通称を当てて説明します。
遺伝の仕組み
キジトラは、縞ができる「地」と、その上に出る「模様」の組み合わせで成り立ちます。
| 要素 | 遺伝子 | わかっていること | 一次出典 |
|---|---|---|---|
| 縞の地 | アグーチ(ASIP) | A型(A/A・A/a)で1本の毛に縞ができる。a/aは無地になる | UC Davis VGL Agouti |
| 模様 | Taqpep | mackerel(サバ縞・キジ縞)が優性、blotched(渦巻き)が劣性 | Kaelin et al. 2012 Science |
| 色 | 非オレンジ | オレンジではないため、地の色は茶褐色系 | UC Davis VGL Agouti |
縞の地の仕組み:アグーチ遺伝子(ASIP)が働くと、1本の毛の中で黒と赤の色素が切り替わり、縞模様(バンド)ができます。これがタビーの地になります。逆にa/a(非アグーチ)の場合はこの切り替えが起きず、無地になります(黒猫がこれにあたります)。
mackerelとblotchedの違い:縞の入り方を決めるのはTaqpep遺伝子です。Kaelin 2012(Science)によれば、mackerel(サバ縞・キジ縞)が優性、blotched(クラシックタビーの渦巻き模様)が劣性です。日本で一般的な縞猫は、ほとんどがmackerelです。キジトラの細い縞は、このmackerelにあたります。
キジトラの縞は、野生の猫に見られるものに近い柄として知られ、最も原種に近いタイプと言えます。ただし前述のとおり、「キジトラ」という日本語名そのものを定義した一次資料はありません。
キジトラとサバトラの違い
キジトラとよく比べられるのがサバトラです。縞の入り方(mackerel)は同じで、違うのは地の色みです。キジトラは茶褐色寄り、サバトラは灰色から銀色を帯びます。
ただし、両者の境目は連続的です。そして、サバトラの銀色みを決める遺伝的な要因(silver / inhibitorなど)は、UC DavisのDNAテスト対象外で、一次資料で断定しづらいのが現状です。ここは無理に言い切らず、「まだ整理途上」と正直に書いておきます。詳しくはサバトラのページで扱っています。
「キジトラは気が強い」という言説の検証
キジトラを含む縞猫の性格として「気が強い」「警戒心が強い」といった言い方を見かけます。これをどこまで信じてよいか、根拠から見ていきます。
毛色と行動の関連を調べた研究には、Stelow 2016(UC Davis・飼い主アンケート n=1,274・自己申告)があります。この調査で差が報告されたのはオレンジ系のメスや黒白・グレー白などで、キジトラ(茶褐色の縞)そのものを「気が強い」と示す結果ではありません。しかもこの研究には、次の限界があります。
- ハンドリング時や動物病院受診時では、毛色間の差はほとんど見られませんでした。
- 飼い主の主観アンケートで、因果ではなく関連の示唆にとどまります。
- 著者自身が「さらなる研究が必要」としています。
つまり「キジトラは気が強い」という俗説を裏づける一次資料は、いまのところありません。性格には大きな個体差があり、毛色から決まるものではありません。
知っておきたいこと
キジトラの毛色そのものが特定の病気に直結する、という一次資料は見当たりません。毛色は色素の話であり、健康状態は日々の様子から判断します。いつもと違う様子があれば、自己判断せず動物病院に相談してください。
ほかの柄との比較は毛色・柄ずかんのハブから、迎える猫を性格から考えたいときは猫種診断や猫種ずかんもあわせてどうぞ。
出典について
このページの遺伝子名・記述は、下の「出典」に挙げた一次資料(UC Davis VGL、Kaelin 2012、Stelow 2016)で2026年7月5日に内容を確認したものだけを載せています。出典を示せないデータは書いていません。
よくある質問
キジトラの毛色はどうやって決まりますか?
アグーチ遺伝子(ASIP)が働いて1本ずつの毛に縞ができる地に、Taqpep遺伝子によるmackerel(サバ縞)の模様が出て、オレンジではない茶褐色になったものがキジトラです。UC Davisの遺伝学研究所とKaelin 2012(Science)が一次資料です。
キジトラは野生の猫に近いって本当ですか?
キジトラの縞模様は、野生の猫に見られるものに近い柄として知られています。アグーチの縞地にmackerel(優性の縞)が出た、最も原種に近いタイプです。ただし『キジトラ』という日本語の呼び名そのものを定義した遺伝学の一次資料はありません。
キジトラとサバトラの違いは何ですか?
縞の入り方(mackerel)は同じで、地の色みが違います。キジトラは茶褐色寄り、サバトラは灰色から銀色を帯びます。ただし両者の境目は連続的で、サバトラの銀色みを決める遺伝的な要因はまだ一次資料で断定しづらいのが現状です。
キジトラは気が強いって本当ですか?
毛色と性格を結びつける言説には、Stelow 2016という1件の飼い主アンケート調査があります。ただし場面によって差が消え、著者自身も『さらなる研究が必要』としており、キジトラを含めどの柄についても性格を断定できる根拠にはなりません。性格には個体差があります。
出典
- UC Davis VGL — Agouti (cat):縞の地をつくるアグーチ遺伝子(2026-07-05確認)
- Kaelin CB et al. 2012. Specifying and sustaining pigmentation patterns in domestic and wild cats. Science 337:1536-1541(2026-07-05確認)
- Stelow EA, Bain MJ, Kass PH 2016. The Relationship Between Coat Color and Aggressive Behaviors in the Domestic Cat. J Appl Anim Welf Sci 19(1):1-15(2026-07-05確認)